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HOME > ESSAY/エッセイ > A05.僕の仕事 |
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僕の仕事。
それはもちろん建物を設計する事である。
自分の所有する建物以外は設計を依頼するクライアントが存在する。
そして当然のことながら
クライアントのお金で設計し、クライアントのお金で建物を建てるわけである。
クライアントのお金で建物を建て、クライアントが建物を使用するわけだから
クライアントを満足させることは仕事の中でとても大切な部分でもある。
しかし、こういった言い方は誤解を招くかもしれないけれど
僕の場合、そのクライアントを満足させることが第一条件とは考えていない。
いや満足させるという言い方は不適切なので言いかえると、
クライアントの要望を叶えることが設計の第一条件とは考えていない、
と言った方が正しいかもしれない。
つまり、クライアントは僕に何かを期待して設計の依頼をするわけだから
その期待に応えるべく僕の力を出し切るつもりで仕事には望んでいる。
それは僕自身が納得のできる仕事をするかどうかということにつながってくると思う。
もちろん僕自身が100%満足できるということはあり得ないし、
自分はまだまだ未熟で、いつも自分の力の無さを痛感する。
自分自身が良くないなと思う設計は、
クライアントがもし満足したとしてもやはり不本意に感じてしまう。
もちろん僕は決して自分の考えを強引にクライアントに押し付けるタイプの建築家ではない。
出来る限りクライアントの要望を汲み取り、
お互いの考えをプランの中に生かすことを考えている。
それでも第一優先条件としてクライアントの要望を叶えることを頭の中に置くのではなく、
自分自身が良いと感じられる建物に、
結果としてクライアントも満足してもらえることが大切と考える。
僕の場合、正式な設計監理契約を交わす前に
有料でプランニングを行なうケースがほとんどです。
有料といってもそのお金はプランニング料ではない。
あくまで僕の考えを前もって提示するための手数料としての金額で、
プランの著作権は事務所が保有するという形である。
例えば、そのプランが僕の手から離れてしまい
僕の考えた建物の完成に立ち会う事の出来ない仕事は出来ないということ。
過去にも、僕の提案したプランを気に入ってくれて、
プランを数十万円で買うから実施設計や現場監理はしなくていいと言われたケースがあった。
でも僕はそれを丁寧にお断りした。
もちろん断れば仕事そのものが消滅してしまう訳だし、
既にできているプランを渡すだけで数十万円もらうことが出来たから
もったいない話と言えばそうかもしれない。
当時の僕はその数十万円が喉から手が出るほど欲しい金額だったけれど
結局僕はイエスとは言えなかった。
僕の考えるプランは僕の大切な子供のようなものである。
この世に姿を現すまでしっかりとこの手でつなぎとめておきたい。
現場監理において僕自身の手が届かないということは
同じ設計図であっても全く自分の意図するものと違う建物ができてしまうからだ。
やはり完成まではキチンと手をかけたいし、
こんな未熟で小さな僕でもそれなりの誇りと哲学を持って仕事に向き合っている。
事前のプランニングについても、
僕の場合、だいたい1ヶ月半から2ヶ月くらいの時間をいただいている。
早くても1カ月、長ければ4カ月ほど待っていただく場合もある。
1週間くらいで考えれば効率はいいのかもしれないけれど、
僕はやはり自分自身で納得のいくプランを提案したいので、
それがまとまるまでは申し訳ないけれどクライアントに待っていただいている。
なかなかイアイデアが浮かんでこない場合もあるし、
アイデアは浮かんでもそれがプランの中で上手く納まらず、
何度も何度もエスキスを繰り返す場合もある。
模型を作りながら変更する場合ももちろんある。
それとは別に、予算や敷地の制限などもあり、
期待と不安が交錯しながら結構苦しむ期間でもある。
そうしてプランが出来上がり、クライアントにプレゼンテーションするまで、
そしてその後のプレゼンの返事をクライアントからもらうまでの期間も、
「クライアントにあのプランを気に入ってもらえるだろうか。」と、
またまた期待と不安でいっぱいになる。
クライアントから良い返事が返ってきた時は、
仕事になったということはもちろんだが、
自分が一生懸命考えたものが実際の建築として出来上がるという喜びが
ふつふつと湧き上がってくる。
いつものことながらうれしい瞬間である。
モノをつくり出す作業というものは、当然のことながら楽しいことばかりではない。
どちらかというと苦しいことの方が多い気がします。
世間の人が思い描いている建築家というイメージとはおそらくだいぶ違うもので、
資料を集めたり、建築基準法などの法律を調べたり、様々なことを勉強したり、
地味で雑用的な作業も結構多い。
役所に足を運んで、時には頭の固い担当者とやり合わねばならない時もある。
設計も適当なところで納得して、
それなしに仕事をこなしていけば楽なのだけれど
そういう訳にはいかない。
経験を積めば積むほど仕事がやりやすくなるかというと
必ずしもそういう訳ではない。
もちろん経験を積むことによって様々な状況に対して対処できる能力は上がってくる。
しかし、経験を積めば積むほど新たに見えてくる課題が次から次へと現れる。
建築というものは、その範囲がとてつもなく広く、尚且つとても奥が深い。
センスという才能だけではとても太刀打ちできない大きな代物である。
例えば、自分の中だけで考え、
コンピューターのCGの中だけでとても上手にプレゼンするような人でも
実際の建物を本当の意味でつくり上げることが出来ないことが多々ある。
自分の中だけで満足し、建築という大きな力を見ていない、
あるいは見ることが出来ないからだ。
そこには強い情熱と強い意志が必要だし、
建築ってイメージや写真性だけではなく、
もっと具体的で手に取ることが出来る確かさが必要だと僕は思う。
それが僕がよく言う「心地良い空間」ということである。
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